驚異のリハーモナイゼーション

 

映画「Round Midnight」は、パリを舞台に、ある天才ジャズミュージシャン(デイル)と彼の音楽に魅了されたフランス人デザイナー(フランシス)との交流を描いた物語。主人公はサックス奏者のデクスターゴードンが演じていますが、もともとモデルになっているのは、ジャズピアニスト バドパウエルで、作者フランシスポードラ(映画の中のフランス人デザイナー)は実際の彼と交流があり、Dance of the Infidels (私訳 異邦人たちの踊り)という本も出しています。余談ですが、この映画を注意深く観ていると、実は、作者フランシスご本人がライブハウスの聴衆者の一人として参加しています(ちょうどデイルが「As Time goes by」を演奏している時に、バーカウンターに座っています)。

ストーリーももちろん良かったのですが、ジャズ好きとしては、とにかく興味深い内容の映画でした。特に、何といっても音楽を担当したジャズピアニスト、ハービーハンコックの創り上げたサウンド。映画の醸し出す雰囲気を最大限にもりあげる演出を、自作の曲から往年のスタンダード曲に至るまで素晴らしいアレンジを施しています。

映画冒頭に流れてくる「Round Midnight」はセロニアスモンクの名曲ですが、正直なところ、自分にとっては特に好みというわけではありませんでした。しかしながら、ハービーハンコックのアレンジによる映画での演奏を聴いた途端、驚きと興奮、そして物凄い感動が湧きあがったのを覚えています。もう30年ぐらい前でしょうか。

原曲には忠実でありながら、緻密かつ大胆にリハーモナイズされたコード進行(バッキング)と編曲、そして構成として完璧で、熱くスリリングな、カッコいいソロ。どれをとってもジャズピアニストならば到達したいエッセンスが全て詰まっています。聴いている間、メロディ(ボーカル)よりもハンコックのピアノを聴くことばかりに集中してしまいます。音の選択が大胆すぎて、本当にこの音で大丈夫?と思ってしまうようなハーモニーでも、まるで魔術師のように曲全体の流れに何故かはまってしまう。コピーしてみると、様々な技法を駆使して、相当緻密に(計算されて)構築されているように見受けられます。確かにこのレベルの人達は理屈抜きでそれなりのセンスが備わっているのでいとも簡単に調理できてしまうのかもしれませんが。とにかく聴けば聴くほど、ハーモニーの奥深さを味わうことができるところがハンコックの凄いところです。

先週より胃腸炎で体調を崩し寝込んでいましたが、この週末、再びこの曲を聴いて、エネルギーを充電することができました(単純ですね。。)。

 

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